【アーカイブ】屋久島と佐渡スギの世界へようこそ 日本列島固有の、古代樹の生き方
講師:崎尾 均さん(さきお・ひとし)
ボタニカル・アカデミー/新潟大学名誉教授
大阪市出身。2008年から新潟大学演習林教授として佐渡ヶ島に移住。2021年Botanical Academyを設立し、代表となる。新潟大学名誉教授。水辺林の生態や樹木の生活史、外来種ニセアカシア、富士山の森林限界、積雪地帯のスギの更新を研究。屋久島では渓流植物のサツキを調査。
屋久島といえば巨大なスギ、みなさんそんなイメージをお持ちかと思います。そのスギはそもそもどんな生き方をして、なぜ屋久島で巨大になったのか? 今回は水辺の植物を研究している崎尾均先生に、屋久島のスギと佐渡ヶ島のスギの対比を通して、スギという植物についてお話しいただきました。こちらのお話を聞いてから屋久島に行くと、スギを見る目が変わること請け合いです。
- 動画版
- テキスト版
※動画のどこでどんな話をしているか簡単な概要をまとめています。詳細な内容はぜひ全編をご覧ください。
話の前の前段を司会者と講師でワイワイと:04:54
- スギとは
- 気象(大雨、台風vs 大雪)と地質(花崗岩 vs グリーンタフ)
- スギの生活史
- 歴史的なスギ林の取り扱い
- スギの利用と未来
話の前段を司会者と参加者でワイワイと:05:05
- 実は崎尾は今屋久島です。今日は荒川の沢で3時間水に浸かってました
- 水辺の植物を調査してました
屋久島と佐渡ヶ島スギの世界へようこそ:09:19
- 水辺の植物を研究しています
- サツキを調べて冷たい川に3時間!
- 崎尾先生自己紹介
- 崎尾先生、小原比呂志さんと屋久島と出会う
- NHK「大捜索ドキュメント! 屋久島“伝説の超巨大杉”」プロジェクト参加
- 川沿いのサツキを見て調査するように
スギの仲間の話:17:00
- 世界にあるいろいろなスギ
- スイショウ、メタセコイア、ヌマスギ、タイワンスギ、タスマニアスギ。
- スギの仲間の分布を世界地図で
ヒノキ科樹木の系統関係:17:49
- スギは現在ではヒノキ科になった!
スギとは:18:27
- スギってどんな植物?
- 何に使われている?
- 太平洋側のスギ、日本海側のスギ
屋久島のスギはちょっと異色?!:20:17
- 屋久島のスギだけ他のスギとは違う遺伝子を持っている
- 太平洋側のスギと日本海側のスギの更新の違い
- 更新の違い/栄養繁殖と実生更新
屋久島と佐渡ヶ島のスギは似てる? 似てない?:22:04
- 屋久島と佐渡ヶ島の位置、気象、地質
- 花崗岩とスギ
- 佐渡ヶ島は緑色凝灰岩
- カエルは海を渡って佐渡ヶ島へ?
- 本州とつながったことがある? ない?
実生更新と栄養繁殖:26:34
- スギの生活史
- 佐渡ヶ島のスギの異形な高齢スギはなぜできた
- 積雪との関係
- まるでマンモスの牙
- 倒木の上でもたくましく生きる
- 切り株の上でだって成長する
チャットからの質問:31:51
- 宮城北部のスギについて
風が創ったスギの芸術:32:46
- 風によりありえない形で成長したスギ
佐渡では天然杉は御林だった:33:15
- 木を1本切ったら打首
- だから今もスギが残っている?
- 直径2m以上の巨大スギ
- 洞爺湖サミットに飾られたパネルにより保護の機運が生まれる
屋久島のスギ:34:44
- 屋久杉は樹齢1000年以上、小杉は樹齢1000年以下
- 屋久島のスギは実生更新
- とは言え倒木更新もあり
屋久杉をどうやって伐採したか:35:55
- 現場で平木にして担いで降りる、力任せ
- 江戸時代の切り株・ウィルソン株
- 江戸時代に屋久島のスギはかなり伐採された
- 伐採された木の上での更新
- 1970年、伐採の事業所閉鎖と土埋木
- 最大の屋久杉・縄文杉
- 湿地の中の更新
- 紀元杉は広葉樹をまとっている
人工林のスギと屋久杉の比較:38:44
- 年輪幅を比べてみよう
- 水分や油脂分の比較
- 油脂分は抗菌性のあるアロマオイルだ
屋久島と佐渡ヶ島のスギの比較:41:39
- サイズはどちらが大きいか
- 地質や気象が2つの島のスギの形や生き方を決めた
- 伏条更新はクローン? 死なないスギになる?
屋久島と佐渡ヶ島のスギの比較:47:23
- サイズ、最高樹齢、更新形態、成長、材質、地質、気象を表で比較
- サイズは圧倒的に屋久杉に軍配
伝説の超巨大杉調査:48:02
- 縄文杉を超える巨大スギは存在するか?
※以下、巨大スギが写真で紹介されます。
チャットからの質問:51:28
- 屋久杉はなぜ巨大になるんでしょうか?
縄文杉を超えた?!七尋杉:51:56
- 七尋杉のどこを測って幹周りとするか?問題
スギの利用と未来:56:52
- 温暖化とスギを含む木質資源の利用
- 資源を非常に長く固定する、二酸化炭素も固定する
今日の話をより深く理解するための崎尾先生の著書/論文/連絡先:58:27
樹に咲く花(山と溪谷社)3巻 分担
ニセアカシアの生態学(文一総合出版) 編著
水辺の樹木誌(東京大学出版会) 単著
Long-Term Ecosystem Changes in Riparian Forests(Springer)編著
https://link.springer.com/book/10.1007/978-981-15-3009-8
屋久島のスギ、佐渡ヶ島のスギ 異なる環境下でスギはいかに生きるか?(日本の科学者)
<科学余話>
https://jsa.gr.jp/04pub/0401jjs/2021contents.html#m2021-06
連絡先
Botanical Academy
URL https://riparian-forest.jimdofree.com
今回は司会・小原比呂志との掛け合いのようなやり取りも面白かったですね。
崎尾先生ありがとうございました。
現在、佐渡ヶ島でボタニカルアカデミーを主宰している崎尾均先生。今回は佐渡島のスギと屋久島のスギについてお話を伺いました。北と南、それぞれの島に生息するスギの違いや共通点、そしてそれらを作り出すそれぞれの環境の違いについてお話しいただきました。
※この回は、司会者や小原との掛け合いも多いので、その雰囲気が伝わるように構成しています。
まず、最初に。“スギとは?”
今日は屋久島と、佐渡島のスギのお話をしたいと思います。
その前に少し自己紹介をします。私はもともと静岡大学で、富士山の森林限界を調査していました。今、温暖化が非常に問題になっていますね。この森林限界の40年来の調査の結果を去年(2020年)発表したりもしています。温暖化により変化もしているこの内容については、また別の機会にお話できればと思います。
卒業後、埼玉県の林業関係のところに就職しました。最初は公共交通機関がないような奥秩父で造林の現場監督などを2年ぐらいやって、その後少し平地に降りてきて、 ダムを作っていました。
その後、森林や林業の研究をする部署に転勤になり、26年間埼玉にいた後、13年前に新潟大学の佐渡の演習林にきました。県の研究機関にいた時に、奥秩父の渓流に生えている木の生きざまを研究したり、新潟大学に来てからは、アメリカのミシシッピー川のヌマスギの研究をしたりしていました。佐渡島に天然杉があるということでスギの研究も初めて、ひょんなことから小原比呂志さんと知り合いになって、屋久島を頻繁に訪れるようになりました。
司会:(えぐさ)小原さんとの出会いっていうのはいつ頃になるんですか?
崎尾:多分2008年頃だったと思います。佐渡島でスギの天然林のエコツアーが始まっていて、小原さんはそのガイド養成の講習をしに佐渡島にいらっしゃったのだと記憶しています。
小原:そのときに『一体これはどういうことなんだろう』と、スギについて思うことがいっぱいあったんですけど、崎尾先生のお話を伺って、目からウロコが落ちるという経験をしました。
崎尾:その後、学生を2人連れて屋久島の荒川を小原さんに案内してもらい、沢登りを楽しんだんです。そこでサツキ(ツツジの仲間)が河川上にきれいに並んでいるのを見たので、いつか屋久島でサツキの調査をしたいと思っていました。私は水辺の植物を調べていたものですから。日本でも珍しいような大群落があるんですよ、屋久島には。
そのあと、NHKの番組になった『世界遺産 屋久島巨大杉を探せ』プロジェクトに参加させていただいて、屋久島に頻繁に通うようになりました。
さて、いよいよスギのことです。
スギにはいろいろな仲間があります。写真を見てください。スイショウ、メタセコイア、ヌマスギ、タイワンスギ、タスマニアスギ。
ミシシッピ川のヌマスギ、ほとんど水に浸かったようなものとか、メタセコイア、これは中国で見つかった生きた化石ですね(写真は小石川植物園で撮影した木です)。
オーストラリアのタスマニア島のタスマニアスギ。セコイアは非常に樹高が高く、100メートルぐらいにもなります。タイワンスギや、中国のスイショウ、コウヨウザンとかメタセコイアなどいろいろなスギがあります。
スギは、昔はスギ科に分類されていました。しかし最近、遺伝子解析を使って系統分類を調べてみると、スギの中にヒノキも一緒に入ってきて、最近では全部、ヒノキ科としてまとめられています。先程の地図の中のスギの仲間というのは昔の分類によるスギ科です。
スギは青森県が北限で、屋久島が南限です。そして日本の固有種です。樹高は40〜50m、高いと60m近くなって、幹の太さは4−5mにも達します。屋久島のスギが一番大きいですね。
屋久島にあるものや太平洋側のスギが「スギ」という名称で、日本海側の多雪地帯に適応した「アシウスギ」、これは変種ですが、大きくこの2つに分けられます。
真っ直ぐで柔らかくて加工しやすいので、材としては建築、土木、彫刻、家具、桶など日本の文化や生活の中で最も利用が多い樹木です。日本酒とも関わりが深い木です。
遺伝構造と隔離
遺伝子解析された図です。日本海側がアシウスギ、太平洋側がスギです。しかし、最近、屋久島のスギだけが、他のスギとは違う遺伝子を持っているということが分かってきました。黄色の部分ですね。赤が太平洋側が持っている遺伝子で、緑と青が日本海側です。
スギ天然林の分布を図で説明しますと、アシウスギ(ウラスギ)、スギ(オモテスギ)、それぞれの分布を見てみてください。この中で屋久島のスギだけが、太平洋側の中でちょっと違った遺伝子を持っています。
どのようにスギが繁殖してるのかについてお話すると、日本海側の雪の多いところでは栄養繁殖です。普通、植物は種ができて種が飛んで発芽して成長していきます。太平洋側のスギは実生で更新するんですね。ところが、日本海側のアシウスギは、枝から個体が伸びていくという更新の方法をしています(これについては後ほど詳しく説明します)。
さて、ここから屋久島と佐渡島のスギについて、説明していきます。それぞれが似ているか、似ていないか、どうでしょうか。
皆さんご存知の通り、佐渡島は日本海側、屋久島は太平洋側にある島です。形は少し違って、屋久島はまんまる、佐渡ヶ島はS字状というかバタフライとか蝶の形とも言われます。
2つの地域の気象を比較してみますと、南にあるので、年間通じて屋久島の気温が高いのは当然ですが、湿度や平均風速はそれほど変わらないです。一番大きな違いは降水量ですね。年間通じて圧倒的に屋久島が多い。
特に6月ですね。屋久島は6月が雨量800ミリあります。これは非常に多い雨です。屋久島は多雨であるのが特徴で、屋久杉の生育の大きな要因になっています。
次に地質です。屋久島に行くと岩盤がむき出しになったり、大きな岩が川の中にゴロゴロしたりしているのを目にします。これは花崗岩という岩石でできているんですが、屋久島自体が、大部分がこの花崗岩でできています。これは非常に大きな特徴です。岩盤の上に乗っているので、土壌が非常に浅いんですね。だから養分があまりない。そういうところでスギが育ってます。
一方、佐渡島です。佐渡島は緑色凝灰岩(グリーンタフ)という水を含むとドロドロの粘土のようになる土が多いために、山の上が非常になだらかになっています。そして地すべりが非常に多い。なだらかになっているので、平らなところには池とか湿地がいっぱいできます。雪解けの頃になると、カエルとかサンショウウオが繁殖してます。2つの島の違いが分かったでしょうか?
小原:カエルがいるということは、カエルは海を渡ったんでしょうか。
崎尾:渡ってるはずですね。どういうふうに渡ってきたかっていうことについてはいろんな議論があって、そもそも佐渡島が本州とつながっていたかいなかったか、いまも決着がついてないんですね。
地質学の人は「つながったとは言えない」と微妙な表現をするんですが、生物から見ると、両生類がいますし、羽のない、地面しか歩けないオサムシとかもいるわけですし、植物種でも新潟の植物種の2/3は佐渡に分布しています。それが全部、風で飛んできた、海に流されてきた、あるいは人が持ち込んだということで説明できるかなという気がするんですね。何かしらつながってたんではないかなという気もするんですけど、今後の研究課題の1つでしょう。
次はスギの生活史についてです。先程も少し話しましたが、スギの生き方の1つは実生更新といい、種子が飛んで、芽生えて、稚樹になって成長するというやり方。もう1つは栄養繁殖と言って、1本の木から萌芽が出たり、枝から根っこが出たりして、同じ遺伝子を持った個体が増えていくやり方です。これを栄養繁殖と言うんですが、日本海側の雪が多いところではかなり栄養繁殖の方法を取っています。
佐渡島のスギ
佐渡島のスギはだいたい樹齢が300年から500年と言われています。伏条という、枝が地面についてそこから根が出て幹ができるような更新の仕方をしています。異形の高齢のスギだということができます。
佐渡の山の上は、積雪が3〜4mもありますが、海岸沿いは降っても溶けてしまいます。標高1000mで雪が3.5mというような感じです。
雪によって木の枝が地面に押さえつけられるんですね。枝が接地して、そこから根っこが出るんです。根っこが出ると新たな木になります。これがまっすぐ立ち上がって1本の木のようになって成長していくんです。
つまり、もともとは1本の木だったのが、何本も周りに木ができていくわけです。遺伝的には全く同じものを持った木なんだけど増えていくといった独特の繁殖をしているんです。挿し木のようなものですね。スギは種を撒いて苗木を作りますが、挿し木でも苗木は簡単にできますので、すごく発根しやすいですね。
雪によって枝がかなり垂れ下がっているのが分かりますね、マンモスの牙のような状態になっているでしょう。もっと極端になると、押し付けられた枝から立上って、幹になってさらにこちらも幹になって。こんな更新があちこちで見られるんですね。
これは、横たわった枝から伸びた幹が、写真の左側にある2本の木になっているんです。
もちろん、種が飛んできて芽生えてという更新もあります。たとえば、こういう倒木の上に種が飛んできて芽生えて、成長していく、これを倒木更新って言います。
切り株の上で種子が発芽して成長するような更新もあります。木を伐採した上に種が飛んできたんですね。芽生えた木がそのまま成長して乗っかったまま成長したような状態。これは屋久島でもよく見られますね。
これは典型的なもので、雪の圧力で枝が下に引きずられて、強風にあたってこちら側には枝がない。
マンモスの牙のようなこういうスギ。それから左下の写真は連結スギという名前が付いています。
これずっとつながっているんですよ、全部。多分どっかで違う個体と合着したんじゃないかと思いますね。木と木がひっついて、1本の木のようになっちゃってるんですね。
これは風の影響ですね。
わずか3mぐらいですが、樹齢100年ぐらいあります。風で全く成長できないような状態です。
歴史的なことなんですが、天然杉は御林、つまり幕府の直轄地でした。ですから禁伐で、勝手に切ることはできませんでした。木一本首一本っていうように、木を一本切っただけで打首にされました。逆に、それである意味、保護されたわけで、今まで残っていると考えられますね。
これは江戸時代に伐採されて、切り株の上で実生更新したようなスギです。ここに種が落ちて、大きく成長したんですね。
実際、1970年代から80年代には佐渡島にもこのぐらい大きな杉があって、かなり伐採されていました。これは直径2mぐらいあると思います。
しかし第34回主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)で、このスギのパネル写真が飾られたことで、佐渡島のスギが一躍有名になり、スギを保護しようという動きができて、現在もかなり大きなスギが残っているわけですね。
屋久島のスギ
次に屋久島です。ご存じの方も多いでしょうが、屋久杉というのは樹齢1000年以上を言いますね。小杉というのは樹齢1000年以下です。現在残っているのは小杉と、利用できなかったような、真っ直ぐじゃない異形の(形が悪い)高樹齢のスギです。
屋久島のスギは種が飛んで発芽して、そこで成長していくという繁殖をしています。
もちろん、倒木の上に種が飛んできて成長して、倒木更新も行っていて、写真は伐採された倒木の上に成長したスギですが、こういう倒木更新を行っています。
屋久杉の伐採は江戸時代から行われていたんですけど、櫓を組んで、屋根を葺く平木の材料の形に加工して、人間が背負って山から降りたと言われています。
江戸時代の切り株です。これはウィルソン株っていう木ですけど、江戸時代には実際にかなりの木が伐採されてました。
これもそうですね。伐採された木の上に更新されている。
1923年に、小杉谷に屋久杉を伐採する事業所ができて、森林軌道ができて、伐採もチェーンソーが利用されるようになって、かなりの屋久杉が伐採されました。1970年に事業所が閉鎖になり、屋久杉の伐採は終了になったんですが、その後は江戸時代の伐採のあとに残された、土埋木と呼ばれているものの集材が中心になって行われています。
これが縄文杉ですね。現在確認されている最大の屋久杉と言われています。
37:53
これは花之江河っていう湿地の中にスギの更新が起こっている様子です。最近ヤクシカが増えてきて、このあたりでもヤクシカを見ることがあります。
これは紀元杉というかなり大きな杉で、スギの上にいろいろな広葉樹がいっぱい生えています。
これは白谷雲水峡のくぐり杉。とにかく形が面白い杉がたくさんありますが、こうした形のスギは材に利用できないということで、放置されたものが数多くあります。
人工林の杉と屋久杉を比較してみますと、屋久杉は年輪幅が非常に狭いのが大きな特徴です。人工林の杉は幅が非常に広い。屋久杉の場合は岩盤の上で成長しているので、年間の成長率が非常に少ない。人工林というのはどちらかというと、標高の低いところで植栽されていますから成長もいい。ただ水分がちょっと異なって、屋久杉のほうがさまざまな油脂成分を含んでいると言われています。最近、屋久杉の葉とか幹から水分を取り出して、オイルにして事業化している方いますよね? 屋久杉の香りは本当に独特で、従来のスギとは全然違う気がしますね。屋久杉は切るとそこから油がにじみ出るような木さえあります。それだけ油の成分が多いわけで、やっぱり腐りにくいのでしょう。
あと屋久島の木にはいろんな生物が着生しているんですね。1本の木で40種類ぐらい植物がついているような木もあります。それは屋久島の樹木の大きな特徴と思いますね。
屋久島と佐渡ヶ島のスギの比較
屋久島と佐渡島のスギを比較してみます。サイズは屋久杉のほうが圧倒的に大きいですね。樹齢も屋久島のスギが2000年、佐渡島ではせいぜい500年という感じですね。更新については、屋久島ではほとんどが実生更新を行っています。崩壊地の土の上で行われる場合もありますし、倒木や切り株の上で行われることもあります。
スギは比較的光のあるような場所じゃないと発芽して成長しないので……今、ネコスラブっていう崩壊地がありますよね、小原さん?
小原:僕らが勝手に呼んでるんですが、尾立岳南東斜面の標高700〜800mあたりで、豪雨で山が剥がれて、200mほど岩盤が出てしまったところをそう言っています。
崎尾:ああいうような深層崩壊が起きると、またスギをはじめ新しい樹木が生える場所になりますし、崩壊した礫が下にたまり、そういうところにもスギの種が飛んで、新たな林ができるような場所になっていくわけですね。
それに対して佐渡島は栄養繁殖です。もちろん実生や倒木、切り株も見られますけど、圧倒的に枝が地面についてそこから幹が立ち上がるような伏条更新が多いです。
成長は、屋久島は地質がほとんど岩盤でできていますので、非常に成長が遅い。そのために年輪の幅が非常に緻密で小さくなりますね。そして油脂成分をいっぱい含んでいる。
それに対して佐渡島では成長が非常に早く、年輪の幅が大きくなります。これは地質の問題があるかもしれません。
気象について言えば、屋久島は雨が多い。佐渡は雪が多い。
風は、屋久島は夏の台風による風は非常に強いですね。冬も強い風が拭いていますけど、佐渡島は冬の間中、強風が吹いている。こういった環境の違いがあります。
このようにスギの形とか、スギがどのように生きていくのかということは、地質や気象など環境と非常に密接な関係があると思いますね。
小原:伏条ということは、木はずっと死なないわけですよね。
崎尾:栄養繁殖できる生物が、無限生命を持っているかって言うと……そのへんは私もよく分からないんですね。
小原:何年ぐらい生きるんでしょうね。
崎尾:うーん、じゃがいもとか、栄養繁殖で毎年同じものを植えてますよね。あれはほぼ全部クローンですよね。もし死んでしまったら、じゃがいもは採れなくなりますよね。挿し木もそうですよね。ソメイヨシノは江戸時代に見つかって、一斉に同じ時期に咲く桜を接ぎ木してクローンを増やしているわけですよね。だから気象情報とかで桜前線の予報などは、同じクローン、同じ個体だからうまく利用しているわけですよね。違う個体なら個体差が出て、多分あんなにきれいなデータにならないと思いますね。
スギのサイズを比較すると、屋久島は圧倒的に幹周が10m超えのものが多いんですね。佐渡では幹周10m以上のものは1本程度で、あとはせいぜい数m程度です。
樹高も屋久島のほうが圧倒的に高く、30m超えがあるんですけど、佐渡島ではせいぜい20mぐらいで、サイズは圧倒的に屋久島が大きい。
伝説の超巨大杉調査
NHKで「超巨大杉調査」というのをやりました。その時に見つかった屋久杉を紹介します。
これは切り株の上に更新したような杉ですね。
これも切り株ですね。これはヤマグルマがたくさん着生しています。これはウィルソン株に匹敵するぐらいの大きな切り株です。
この切り株は、幹の周囲が14.0mでした。ウィルソン株は13.8mです。
屋久島のスギ天然林の中を見ていると、一見原生林のように見えるんですが、よく見てみると江戸時代の切り株があっちこっちにあります。人間が昔から森林に与えてきた影響がいかに大きいのかということを、屋久杉の林の中を歩いて実感しました。
小原:この切り株がすごいのは、腐らないで残っているということですよね。
崎尾:驚くべき耐久性を持っていますね。200〜300年残っているわけですから。ですから船材とか、いつも雨で濡れてしまう屋根材とか、腐りやすいところに使うと無敵だという定説があったわけですね。
えぐさ:屋久杉の油で腐らないということなんですよね?
小原:油というより樹脂というか脂といったほうがいいですね。水をはじくというより抗菌成分が強いということかと思います。
これは中洲杉というスギですが、樹高が35m、周囲が10.2m。このぐらいのスギがゴロゴロあります。
小原:さすがにこのクラスだとゴロゴロはないかと…(笑)。この大きさの木を見つけると「やったー」って感じです。
崎尾:あれ。そうですか(笑)。
小原:ただ、昭和の頃、伐採地の際だったり、「周りは切っちゃったけどここは残しておこう」というようなことで残ったということも結構あるみたいですね。
崎尾:ちょうど今出ている写真は、縄文杉を超えたと言われている七尋杉というスギですけど、これはもう中がなくて、中に入ると空が見えている。いつ倒れるのかなっていうぐらいのスギですね。
小原: これに関しては色々ありましたね。
崎尾:ええ(笑)。下のほうが根っこじゃないかとかですね。
小原:ちょっとよく分からないところもありますが、僕から説明すると、この写真の上、4〜5m上のところを計るとそれほど大きくない。周囲10メートルぐらいです。ところが実は木の根の際の、洞窟みたいになっているところも幹だったんじゃないかと考えることもできるんですね。つまり、なにか倒木の上に生えて、ちょうど真ん中あたりに根っこが広がっているんだったら、根がどれだけ広がってもそれを直径とは言いませんけど、根ではなくて、もっと下の地面から芽生えている可能性がある。だとすれば下の方で計るのが本当の幹周りだということになるんです。
実際問題として、これではどこからが幹か確定できないので、とりあえず地面から1.3メートルの周囲を計るという決められた方法で測定したら、縄文杉より大きいという数字が出たんです。微妙なところですが。
スギの利用と未来
我々の祖先は、スギをたくさん植えて利用しているんですけど、今後、温暖化などの問題を考えていくと、スギを含む木質資源をいかに利用していくかということが大きな課題になっていくんじゃないかと思います。
スギは日本酒と非常に深い関係があります。昔、醸造するのは杉を使った樽でやってましたし、酒屋の前には杉玉があるし、杉の枡でお酒を飲むという文化があります。
また、住宅も、昔の家は杉で作っていましたけど、現代でも杉をふんだんに使った建築、スギで作ったような家具材が見直されようとしています。
そうすることで1つの資源を非常に長く固定して、二酸化炭素も固定する、こういうことが温暖化を防ぐ大きな課題になってくるのではかと考えています。
最後に紹介です。私は以下のような本を出版していますが。今日の屋久島のスギと佐渡島のスギについての内容は、日本科学者会議の「日本の科学者」というこのURLのところで、オープンアクセスで自由に見ることができますので、それを見ていただければ参考になると思います。ボタニカルアカデミーのURLも見てください。
主な著書・論文
- 樹に咲く花(山と渓谷社) 3巻 分担
- ニセアカシアの生態学(文一総合出版) 編著
- 水辺の樹木誌(東京大学出版会) 単著
- Long-Term Ecosystem Changes in Riparian Forests (Springer) 編著
(https://link.springer.com/book/10.1007/978-981-15-3009-8) - 屋久島のスギ,佐渡島のスギ ー異なる環境下でスギはいかに生きるか?(日本の科学者)
(https://jsa.gr.jp/04pub/0401jjs/2021contents.html#m2021-06)
ボタニカルアカデミー
https://riparian-forest.jimdofree.com
【質問コーナー】
オンライン中に参加者から寄せられた質問の一部をご紹介します。
Q.岩手南部から宮城北部の南三陸沿岸の天然杉は、積雪がないにもかかわらず伏条更新していることが知られていますが、これはウラスギですか、オモテスギですか。
崎尾:それはちょっと難しいですね。私も見たことがないので。もしかしたらスギの中に伏条更新しやすい遺伝子を持っている杉があるのかもしれないですね。
小原:南三陸沿岸に天然杉があるとは全く聞いたことがなかったんですが、ちょっと調べてみたいですね。
Q.屋久杉はなぜ巨大になるんでしょうか。
崎尾:巨大になるということは、枯れないから巨大になるわけですよね。枯れて倒れたら終わり。倒れない限り、枯れない限りは成長し続けるので、ずーっと死なないと、結果、巨木になる。たぶん寿命がながい。
成長が遅いけど、とにかく長生きする。死なないから、いつまでも生きててでかくなるということだと思います。
Q.屋久杉はなぜ腐らないんですか。
それはやはり抗菌性の強い樹脂が多いというところが決めてという気がしますね。腐らないから枯れない。朽ちない。
それがなぜかというと下が花崗岩の岩盤で養分がないから、成長が非常に遅いというところに来るんでしょうね。
小原:それ前から疑問だったんですが、光合成して「肥やし」が少ないと成長があまり早くならないというのは分かるんです。だけど樹脂を大量に生産しているってことは、結構(木自身の)コストがかかりますよね。とすると、稼ぎが悪いから成長が悪いっていうのは本当かな? と疑問に思ってたんです。稼ぎの大半を樹脂に注ぎ込んでいるってことはないでしょうか。
崎尾:おもしろい考え方ですね。
小原: 結局トレードオフ、交換という考え方で、成長するのか樹脂生産に回すのかという交換が成立しているのかという疑問なんですけど。
崎尾:今後そういう研究も進むかもですね。