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【アーカイブ】コケの聖地 屋久島 魅惑のモフモフの世界へようこそ

屋久島を訪れた人なら必ず目にする動物の1つ、ヤクシマザル(以下ヤクザル)。西部林道を通れば出会わないことのほうが珍しいぐらいです。ヤクシマザルはニホンザルの亜種。そして屋久島はニホンザルの南限の生息地です。彼らは群れに分かれ、島の海岸近くから1800メートルの高山にまでを生息域にしています。サルたちは屋久島の自然をどう利用し、どんな生活をしているのでしょうか。

講師:藤井久子さん(ふじい・ひさこ)
岡山コケの会

屋久島を訪れたことをきっかけにコケの魅力にはまる。独学でコケの観察を続け、岡山コケの会に参加して研究者とも交流を深める。全国各地で講演会や観察会を行い、コケの魅力を伝えるコケ伝道師。著書に『コケはともだち』(リトルモア)、『知りたい会いたい特徴がよくわかるコケ図鑑』(家の光協会)『コケ見っけ! 日本全国もふもふコケめぐり』(家の光協会)など。ブログは かわいいコケ ブログ Twitter@bird0707 インスタグラム @hitsujigoke

講師:鵜沢美穂子さん(うざわ・みほこ)
茨城県自然博物館 学芸員

博物館学芸員としてコケなどに関する企画展示を手掛けるとともに、「コケ植物の受精と胞子体形成に関する研究」や「茨城県のコケ植物層の調査研究」を研究テーマとする。著書に「あなたの あしもと コケの森」(文一総合出版)。2022年2月6日まで茨城県自然博物館で鵜沢さんが企画した「こけティッシュ苔ニュー・ワールド!」開催中。屋久島のコケの森に関する展示もあり。

  • 動画版
  • テキスト版

※動画のどこでどんな話をしているか簡単な概要をまとめています。詳細な内容はぜひ全編をご覧ください。

藤井久子さん・私がコケとの出会いは屋久島:02:00

  • 初めて訪れた屋久島で「縄文杉よりコケを見よ!」と告げたガイドが運命を変えた
  • 握りしめたオオミズゴケから滴る水に驚愕

深まるコケ熱:07:05

  • アーバンモス観察
  • 八ヶ岳に行き、山のコケにはまりまくる

屋久島のコケの魅力:10:17

  • 亜熱帯から亜寒帯まである屋久島の豊かな植生の土台はコケ!
  • ヤクスギランドはコケ天国

コケ入門書を執筆:14:06

  • コケにのめり込み著書執筆
  • 研究者の学会のコケ合宿にも参加
  • 憧れのミジンコゴケは進化の最先端だった
  • コケ図鑑の作成も!

コケめぐり振り返り21:33

  • 国内、どんな場所にいったか教えましょう!

鵜沢美穂子さん登場 26:15

  • 仕事先の茨城県自然博物館で「こけティッシュ 苔ニューワールド」展示開催(2月6日まで)
  • 出会った中で一番変な生きもの・コケとの出会い
  • 趣味はコケの顕微鏡写真撮影(必見、美しい写真27:26)
  • コケのオスとメスを見分ける仕事をしています

コケの一生(図解):31:51

  • コケはどうやって増えるのか? 胞子体を理解しよう
  • 受精と胞子体発生の過程
  • コツボゴケの胞子体の成長動画(34:14〜35:43)

今更だけどコケって何?:35:49

  • コケはどんな生きもので何に所属している?
  • 地衣類とコケは違う!
  • 鵜沢さんと屋久島との出会い
  • 屋久島のコケは日本のコケの3割以上

藤井/鵜沢 両名の推しモフをご紹介!:44:37

  • 藤井さんの推しモフは?
  • 鵜沢さんの推しモフは?
    (ここから55:50まではコケ女子二人のトークが炸裂します。ぜひ動画を!)

屋久島の魅力を最後にひとこと:55:51

  • 縄文杉のある島の主役はミクロな世界(藤井さん)
  • 溺れるほどのコケがあふれる世界(鵜沢さん)

屋久杉や高い山などダイナミックな自然を持ちながら、実はそれを支えているのはコケだった?!
近年、ブームになりつつあるコケ。屋久島の豊かな森を支えている立役者でもあります。倒れた屋久杉の上にフカフカ、モフモフと広がるみずみずしいコケもあれば、ルーペで見るとその造形美に驚かされるコケも……。そんなコケに魅せられた講師2人をお迎えしてお話を伺いました。
※詳細な内容はぜひ動画をご覧ください。

まずは藤井久子さんのご登場です。

私がコケと出会ったのはまさに屋久島、そして小原比呂志さんがきっかけです。
コケが好きになってもう17〜8年でしょうか? 今日は自分のコケ歴を振り返りながら、昨今のコケ事情、おすすめのコケスポットなどについてお話したいと思います。
屋久島に初めて行ったのは2005年か2006年ぐらいですね。当時はコケに興味はなく、世界自然遺産になった場所を一度見てみたいと思い、母と一緒に旅行したんです。自然の中を歩くならガイドさんを頼まなければとネットで探して見つけたのがたまたま屋久島野外活動総合センター(YNAC)だったんですね。さらに、ガイドがたまたま小原さんだった。
その日、白谷雲水峡に連れて行ってもらい、歩きながら、
「屋久島に来たのなら、やっぱり縄文杉に登ったほうがいいんでしょうか?」
と話したら、帰ってきた答えが、
「縄文杉に行くよりも、屋久島に来たらまずコケを見てください、それが屋久島を知ることです」
という言葉だったんです。そして、その場にあったオオミズゴケを手にとって、ギューッと手で絞ったんです。そうしたら、水が滴り落ちてきて、私はビックリしました。
「ミズゴケはこんなにたくさん水を含んでいるんですよ。しかもおもしろいことに、このまま群落に戻してやると(手で絞っても)ちゃんと元通り、生きていくんです」
小原さんのその言葉に「コケって何者なんだろう。不思議な植物なんだな……」と思いました。小原さんは間髪入れずルーペを取り出して「見てください」と、コケを見せてくれたんです。これが、私とコケの衝撃的な出会いでした。

帰ってからもコケが気になって、独学でコケの本を片っ端から読むようになり、ますます「コケは面白い」という思いを強くしました。本を読んでいると「街には街ならではのコケがある」と書いてあり、当時住んでいた東京でもコケを探してみました。そして身近なアーバンモス(都会のコケ)をスケッチするなどして、一人で黙々とコケについての興味を深めていったんです。こういうことをしていたのが2008年から2010年ぐらいだと思います。

その頃、夫とよく八ヶ岳に行っていました。コケに興味を持つまでは気が付きませんでしたが、コケを知ってから山に登ると「山のコケはすごい!」ということに気がついてしまいました。屋久島とはまたちょっと違う顔ぶれのコケがいっぱいいるし、キノコも多い。ということで、地面に目が釘付けになってしまい(そのため、夫や山に一緒に登っている仲間からは『遅い‼』と嫌な顔をされていました)ルーペを買ったり一眼レフを揃えたりして道具が揃っていって、ますますコケにはまっていったんです。
もう時間の許す限り地面にへばりついての登山で、知れば知るほど、掘れば掘るほど面白いこと、不思議なことが分かってくるんです。
ただ、この頃は完全にソロ活動でした。コケに関する友だちが一人もいなかったんです。しょっちゅう屋久島に行くわけにもいきませんし、2010年ぐらいまでは孤独でしたね。

仲間ができたのは、「岡山コケの会」と「日本蘚苔類学会」に入れていただいてからです。これで私の“コケ環境”が飛躍的にグレードアップしました。

さらに『コケはともだち』(リトルモア)というコケ入門の本を出すことになったことも大きかったです。
出版記念イベントをしたらものすごく人が集まって、マイナーと思われていたけれど、実はコケが好きだという人が結構いると分かったんです。年齢も関係なかったです。70~80代の方の中には、庭のコケでおままごとをして遊んでいた思い出のある方もたくさんいるという発見もありました。
徐々に気の合うコケ友もできて、アート展をやってみたり、イベントや観察会をしてみたり、小規模ながら友だちと色々やるようになったことで、私の活動の幅が広がっていきます。

夢のコケ強化合宿

屋久島でのもう一つ大きな思い出は、日本蘚苔類学会(コケの研究者が集まる学会)の『コケフォレー』です。一週間くらいコケを見まくって勉強しようという強化合宿で、こちらに参加させていただきました。これは何年か連続で開催され、小原さんも参加されてました。コケを見るためだけに屋久島に行ったメンバーですから、とにかく朝から晩までコケを見て歩き、許可済みの採集してきたコケを顕微鏡で眠くなるまで見続けるという楽しいものでした。

屋久島にはメジャーなものはもちろん、珍しいコケもたくさんいます。もう素人では見つけられないようなコケもたくさん。参加されていた研究者の古木先生に、
「図鑑でずっと見てて、憧れているミジンコゴケ、自力では見つけられないので、ぜひ見たいんですけど……困ってるんです」
と、わがままを言ったら、
「見つけましょうか!」
と言って探してくださって。愛好会や学会に入るとそういうお得なことがあるんです。
先生は、あっさりと杉の根元にあるのを見つけて下さいました。
「結構な大群落ですよ」
とおっしゃるんですが、ミジンコゴケは日本最小クラスのコケなので、杉の皮をちょっとめくって、くっついているのをルーペで見てももやもやしてる感じで、持って返ってきて実態顕微鏡で見てやっとはっきり「うーん……海ぶどうみたい??」というふうに見える感じです。でもこれでもまだ見えきらないので、生物顕微鏡で拡大してやっとはっきり見えるぐらいです。

でも私ちょっとがっかりしたんです。あまりに簡素すぎて。生物顕微鏡で拡大してやっと葉っぱが分かって、その先に透明細胞があるのが特徴だと本などには書かれていて、たしかに透明細胞があるのは見えるんですが、その作りを見て私は「大きくなれないし、葉っぱも伸びないし、コケの中でも退化してるんだろうな」と思ったんです。

ところがそうではないんです。

古木先生に伺うと、「違うよ、むしろ進化の最先端です」とおっしゃって、びっくりしました。小さいですが、この種はさらに小さくなろうとしている。この小さな無駄のない形こそ進化の証なんだということなんです。
屋久島には同じムチゴケ科の大きなコケがたくさんありますけれども、
「ミジンコゴケは小さい形で体の大きな種と同じように 対等に生きていけるようになったことこそ進化で、こっちの方こそ最先端なんだよ」
と言われて衝撃でした。

そんなこんなでコケの活動が充実してきました。 T シャツやグッズを作ったり(Tシャツは今日も着ています)、観察会の参加者が年々増えてきて申し込みが満員になったり……。コケの認知度が上がってることが肌で感じられてきたのが2015年ぐらいでしょうか。
だったらということで、コケ図鑑を作ることになりました。顕微鏡でないと分からないものは素人にはハードルが高いのでルーペの範囲で種が分かるコケを集めた本『知りたい会いたい 特徴がよくわかるコケ図鑑』(家の光協会)を作りました。

屋久島の魅力

〇そもそも屋久島はどうしてコケが面白い島かというと、最高峰の宮之浦岳の標高が1900 メートル以上あるために亜熱帯から亜寒帯の気候まで小さい一つの島の中で全部あるからなんですね。
〇植生が豊かで、その中にモッシーフォレスト(蘚苔林)というコケが主役の森もあって、コケが土台になって森が出来てるということが肌で感じられるのが屋久島の好きなところです。
〇おすすめのポイントはまず白谷雲水峡で、中心に白谷川が流れて常に森が潤っているイメージです。もう一つは面白いのはヤクスギランドで、私は白谷雲水峡以上に好きです。白谷雲水峡よりちょっと標高が高くて、環境の変化に富んでいて、「コケ眼」(コケにロックオンされた眼)で見るととても面白いコケがたくさんあります。ウツクシハネゴケなど図鑑で憧れてここで会えて本当に感動しました。ぜひこちらにも行っていただきたいと思います。
コケ眼で見ると、壮大な森の雰囲気も味わえるし、足元の小さなものに寄って行くと多種多様なコケがたくさん見られるので面白いですね。ぜひ“コケ眼”を養ってください。

私のコケめぐりを振り返る!〜2004−2019年〜

いろいろ他の場所にも行ったりしています。奥入瀬、八ヶ岳、屋久島の三つを合わせて「コケの三大聖地」と呼んでいます。奥入瀬渓流は14kmの川沿いの遊歩道がずっとコケロードみたいになっているんです。道が緩やかで体力がない人でもゆっくりと最後までコケを見ながら歩けます。シダやキノコ、粘菌も豊富で、東北の「隠花帝国」と私たちの界隈で呼んでいます。「隠花植物」というのは花を咲かせない植物・菌類の総称です。“インカ帝国”とかけてるんですね。

もう一つは北八ヶ岳です。素晴らしいのは、森の周りに点在する山小屋などで結成された「北八ヶ岳コケの会」という会があり、5月から10月にかけて研究者も交えた観察会やイベントを開催してくれているのです。手ぶらで全く知識なしに行っても、先生のお話を聞きながら歩くと初歩的な八ヶ岳のコケに詳しくなれて基礎知識も学べる、とてもいい場所だと思います。
ここにはナンジャモンジャゴケという変わったコケがあったりします。「北八ヶ岳コケの会」のメンバーである「麦草ヒュッテ」のオーナーは、動物のフンや死骸に生えるコケ(マルダイゴケなど)を育てたりされていて、おもしろいコケが見られたりしますので、ぜひ訪ねてみてください。
また世界各地に苔スポットがあります。2019年に行った台湾の太平山は最高でした。小原さんがニュージーランドはいいとおっしゃってるので、そこにも出かけてみたいとも思っています。
その後も私のコケ巡りは続いていまして、最近行った場所も含めて『日本全国もふもふコケめぐり』(家の光協会)という本にまとめました。

鵜沢美穂子さん登場

続いては、もうひとりの講師 鵜沢美穂子さんの登場です。

鵜沢です。どうぞよろしくお願いします。現在、私が勤めている茨城県自然博物館というところで『こけティッシュ 苔ニューワールド!』という企画展を開催中です。(2021年10月26日〜2022年2月6日で現在は終了)これを機に、一人でも多くの人にコケを好きになってもらおうと企んでいるところです。
これから、自己紹介も含め、「コケとは何か」というようなお話もしながら進めていきたいと思います。

私のこの写真は、キナバル山で世界一背の高いドウソニアという蘚類と撮ったものです。私は生きもの自体が好きだったんですが、高校生のとき、道端のゼニゴケを見つけて、小さいながら健気に胞子を飛ばしている姿に魅せられてからどっぷりコケの世界に入ってしまいました。
大学生になると顕微鏡を使える環境に恵まれ、それで見るコケが美しくて・・・。趣味はコケの顕微鏡撮影なんですが、今回ご紹介する写真はみんな私が撮影したものです。顕微鏡で見ると宝石箱のような世界が広がります。コケの多様性のまた一面を知ることができるんですね。

私は博物館で学芸員をしながら調査研究をしていますが、最近は主にコケのオスとメスを調べることをやっています。特技は雌雄判別で、たぶん日本の中で五本の指に入ると考えています!(笑)。特に注目して研究しているササオカゴケは、顕微鏡の下でピンセットで解剖しないとオスかメスが区別できません。解剖すると1 mm ぐらいの造精器と造卵器という器官が出てきて、その形を見て初めてオスかメスかが分かるんです。これを全国のササオカゴケで調べて、オスとメスの分布を調べたりしています。

探しているときはとても地味で、藪をかき分け、かき分け、泥だらけになりながら調査をしています。

実はササオカゴケ自体が激レアなコケの一つで、絶滅危惧Ⅰ類なんです。茨城県内で絶滅したと思われていたところ、偶然にも再発見することができ、まずそこで興味を持ちました。珍しすぎるので研究者も少なく、50年以上まったく調べられていない場所も数多くあります。50年前の標本はあってもそれ以後その採集地に誰も入っていないところがたくさんあって、過去の記録を頼りに採集に行くと、宅地開発で環境ごと無くなってしまっていることもあります。見つけられると、宝物を見つけたようで飛び上がるほど嬉しいです。そんな調査を繰り返しています 。

コケの一生

雄と雌の話も交えて、コケがどんな一生をたどるのか見てみましょう。

コケは胞子で増える生き物なので、胞子体を作ります。胞子から芽生えたばかりの姿は糸状の原糸体というものです。そこに、茎と葉のあるタイプのコケだと「茎葉体」というものができます。雄株・雌株に分かれる場合も分かれない場合もあります。
分かれる場合にはそれぞれの茎に雄の生殖器官と雌の生殖器官ができます。精子は植物にしては非常に原始的で、水の中を泳ぐんですね。泳いで雌株までたどり着いてここで受精します。するとメスの体の造卵器の上で胞子体が成長します。その中で胞子ができて、ライフサイクルがぐるりと回ったということになります。こういう受精とか胞子体の発生に興味があるので、その観点で私は研究テーマを考えたりしています。

展示にも関係して、どのように胞子体が成長するか動画を撮影しました。コツボゴケというコケを9ヶ月に渡って定点観測したものです。6月ぐらいに受精して、胞子体が伸びますが、秋にようやく目に見えるぐらいに大きくなります。それから日々わずかずつしか大きくなりませんが、短縮してみるとこのようににょきにょきと、生きてるなあという感じで伸びるのを見ることができます。まるで田んぼの稲か野菜が育ってゆくように見えますね。小さいながら足元でこのような成長を繰り広げているというところが、私がコケに惹かれる理由の一つかなとも思います。
コケって何?
屋久島とコケの関係の話に移る前に、ここでコケとは何か?をおさらいしておきます。コケは、①緑色をした陸上植物の1グループで、②胞子で増えるという特徴があり、③維管束つまり道管や師管を持たない。この三つの特徴で他の植物から分けることができます。
水や養分を運ぶ管がないかわりに、全身で水を吸収します。水と密接な関係がある、これが屋久島につながる特徴ですね。

屋久島との出会い

私が最初に屋久島に行ったのは、だいたい藤井さんと同じ2005年のことでした。この時は大学生で、「コケの研究をしたい」と言っていたら、「屋久島でコケの合宿をやるから参加してみなさい」と岡山理科大の先生に声をかけていただいたんです。それに参加したのが初めての屋久島でした。
私は一介の学生だったので、小原さんはこのときの私を全然覚えてくれていなかったんですけれども、一緒に写った写真を証拠に出しておきます(笑)。

小原:これは白谷雲水峡の飛流歩道の東屋ですね。このあと山崩れでなくなっちゃったんですよ。この時に白谷雲水峡に林道入れたということで、大問題になったんですが、その山を崩した後に水が湧いて、ミズゴケがたくさん生えてきたんです。藤井さんの話の冒頭に出てくるミズゴケの話、あれは工事現場に生えたミズゴケをつまんでお見せしたんです。

鵜沢:どこに行っても水が湧いて、ミズゴケが生えてくるというところが屋久島の凄さですね。写真の左端の奥に写っている方が写真家の伊沢正名さんです。図鑑の写真をたくさん撮影されていて、コケやキノコが好きな人には神様のような人です。この時、伊沢さんの車に関東から屋久島まで乗せていただいて、現地では伊沢さんがコケの写真を撮る様子も見せていただくなど、貴重な体験をしました。

ここで朝から晩までコケ漬けの日々を送りまして 一週間のうち三日間白谷雲水峡に行きました。ストイックな会でした。学生なのでしごかれました。強化合宿ですね。夜はお酒飲みながら、眠くなるまで生物顕微鏡を見ていました。
私はこれまでに合計4回ぐらい、後は遊びに行ってますが、そのたびに「屋久島のコケはすごいな」とひしひしと感じます。屋久島で確認されているコケは今700種です。日本産のコケ約1900種のうちの約36%を占めるんです。
一つの島でこんなにコケの多様性が高いところは、世界中探しても稀じゃないかと思います。これだけコケがあって、屋久島の名前がついた種もたくさんあるというところも屋久島の凄さですね。固有種はそれほど多くありませんが、屋久島で盛んにコケの研究がされたために、屋久島の名前がついたコケが19種もあります。他の地方でここまで地名がついたところはありません。
あまりにもコケがありすぎるので私にとっては行くたびに頭がパンクしそうで、好きだけど苦しいみたいな、複雑な気持ちを抱えながら屋久島に行ったりしていました。

藤井・鵜沢 2人のおすすめコケは?

※ここからは藤井さん、鵜沢さんと小原でのトークになります。

鵜沢:屋久島モフゴケセレクションということで選定してみました。まずウワバミゴケ。東南アジアの国では割と普通ですが、日本では屋久島のみなんですね。

小原:屋久島でも標高の高いところにありますから、熱帯の高山のコケなんでしょうね。

藤井:台湾でも標高の高いところで見ました。ウワバミゴケの何がいいのかと言うと、レア度が非常に高いところです。白谷雲水峡にはなくて、島内でも限られたところでしか見つけられません。

小原:縄文杉に行く途中に、なぜか一箇所だけあるんです。そこでガイドの人たちが「これがウワバミゴケです」と紹介してることもあって、意外と知られているみたいです。そのほかの場所では、僕も5箇所でしか見たことがありません。標高の高い、涼しい谷沿いの、水の染み出すけど明るいところですね。

藤井:住んでいる場所の、こだわりの強さがコケらしいです(笑)。

鵜沢:コケは選り好みが激しいですよね。

小原:持ち出しても、持ち出した先で生えてくれませんものね。コケを取って行く人は屋久島にはそんなに目立たないんですが、もし持ち出したとしても結局枯れてしまうことが多いはずです。部屋の中で屋久島の森の環境を再現しなければいけないから、無理です。

鵜沢:続いてはヒロハヒノキゴケです。これは屋久島に多いですね。

小原:このコケは杉が好きですね。屋久杉の根元や、切り株倒木はだいたいこれに覆われてるんですよ。多分スギは酸性が強いので、酸に耐えられる性質が強いのかもしれません。

鵜沢:ヒノキゴケの仲間はそういう性質があるみたいですね。
次はムクムクゴケです。ちょっとぬいぐるみみたいです。これは拡大した写真なので、手触り的にはもふもふではありませんが、視覚的には200%モフモフですね。

藤井:モフモフですね。名前がずるいですね(笑)。顕微鏡モードのデジカメで20倍ぐらいで、こんな感じにみえるでしょうか。

鵜沢:このぬいぐるみ欲しいですね(笑)
藤井:抱き枕とか、ちっちゃい虫になって、この中に入りたいですね。
鵜沢:その他、全国のモフモフゴケセレクションということで、三つ選びました。一つはタマゴケです。

藤井:これはモフモフの代表格で、胞子体が丸いし、群落も球状になるので見た目がずるいと言うかあざといと言うか(笑)。意外に普通の場所に生えてますね。珍しい場所じゃなくて、山道みたいな、人が切り開いた斜面とかに出てきます。

鵜沢:シッポゴケ、これもいいですよね。ふわふわです。

藤井:シッポゴケもいくつか似た種類がありますが、これが割と大きいですね。

鵜沢:葉が一方向になびくのがこの仲間の特徴で、さらにモフモフポイントが葉っぱ以外にもありまして、茎の表面に仮根(かこん)がびっしりと生えています。この仮根もモフモフしているのも、隠れたポイントかも。

藤井:マニアックなところついてきますね!!

鵜沢:茶色く見えてるのが、仮根の糸なんですね。そこももふもふしているんです。

藤井:仮根というから下に生えるのかと思ったら、上ってきてる。茎にまとわりついてきて、モフモフしてるんです。これは種を見分けるポイントにもなってますよね。
鵜沢:そうですね。この仮根が茶色いか、白いかとかね。
次。ヒノキゴケです。これはヒロハヒノキゴケと近縁ですが、こちらは大振りでよりもふもふです。屋久島にはヒノキゴケも、ヒロハヒノキゴケも両方ありますね。

藤井:これは京都の苔庭でも使われていますね。人工的な場所にもよく使われています。

小原:聞いていいですか? これ“イタチのしっぽ”って言いますか? 図鑑に書いてありますが。

鵜沢・藤井:ああ、書いてありますね。

小原:イタチゴケとか、動物系の名前って多いじゃないですか。それはみんなこの葉っぱが細くて、毛みたいで、ふわっとしてるのでもふもふ系になるんですね。触ってもふわふわですが、どうしてこんなにふわふわなんでしょう? ふわふわだとコケにとっていいことがあるんですか?

鵜沢:そうですね、葉の先端で露を集めたりということもあるし、クッション状になることで、群落全体で水分保持に役立ったりすると思います。メリットはそんな感じでしょうか。

最後に、お二人にとっての屋久島の良さを教えてください。

藤井:やっぱりコケが生き生きしていること。水が豊富な島ですから、どこに行ってもコケが生き生きしていることがまず1つ。また、コケが豊富で、足元をみるとコケの隙間にいろいろな植物の芽生えや、菌類や、虫などが息づいていて、「ミクロの世界が主役なんだな」と感じます。そしてそこから縄文杉のように大きなスギが育っている。その土台が作られていることを感じますね。地面の力がすごいというか。ミクロの世界を超体感できるというところでしょうか。

鵜沢: 溺れるようなコケの魅力を感じられる場所は本当に限られていますよね。今日、話しそびれましたが、北八ヶ岳とか富士山とか、コケがきれいなところはほかにもあるんですが、屋久島はコケの多様性がすごくて。小さい面積の中でのコケの種数はすごいな! と思います。ごちゃっと生えているんだけれど、全体的に見るとむちゃくちゃきれいで美しい。そういう多様性と、溺れるようなコケむしたところをいろんな方にぜひ体験していただきたいなと思いますね。

小原:ありがとうございました。来年度(2022年度)以降になると思いますが、今後屋久島大学ではオンラインではない実習も行おうと思っていて、コケも必ず取り上げます。今、オンラインで見ている方はそういうチャンスに屋久島に来ることも検討してみてください。

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